あたらしトランスファー

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「風立ちぬ」を観て、僕が思ったこと全部(2013/8/27)

2023年夏、「君たちはどう生きるか」が公開されました。

まじんも鑑賞して感想をまとめているのですが、

前作「風立ちぬ」を観た際の感想がfacebookノートに残っていたので、

振り返りがてらここに転載しておきます。

 

これは2013年8月27日に書かれたものです。

 

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風立ちぬ」の感想について、意図して制限した内容しか書いてこなかったんだけど、そろそろいいかなと思ったので書く。自分のために書く。思ったこと思うままにすべて書く。

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 この作品は宮さんの私小説であり、宮さん自身の絶望と悔恨、
そして遺書であり、ラブレターだと思った。

とても私的な映画だと思います。これ、晩年を迎えた宮さんが、奥さんに向けたラブレターなんだよ。


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 まず感じたのは絶望。まず感じたのは絶望です。


この映画、出てくるもの全て、もう日本で滅びたものしか出てこない。
この映画に出てくるもの全て、もう日本には無いものばかりなのです。


かろうじて軽井沢のホテル(の建物)と、三菱の(もう姿を変えているであろう)工場が残っているくらい。


そして、主人公にも何も残らない。妻を失い、作った飛行機は一機も帰ってこない。

 

正直、この絶望に打ちのめされて、観たあと三日くらい沈みました。
これが宮さんの想っているものなのかと。


飛行機を愛し、飛行機を作り続ける「主人公」は、宮さん自身を投影したものに思える。


アニメを愛し、アニメを作り続けてきた宮さん。
もちろん飛行機自体も大好きだ、戦争の道具である飛行機も。


この映画と、宮さんのいまの気持ちが重なって見える。
宮さんの今の気持ちが、コレなのかと。

 


 この映画、とても美しいです。本当に美しい。
でも宮さんが今まで作って来た映画とは違う。

何も説明していない。
何も語っていない。

ただ美しく、もうこの世にない、自分の愛しているものを美しく描きつづけてる。


高畑勲監督の映画かと思いました。画が高畑監督っぽいと思った。
全力なのでしょう、今までの経験、一緒に仕事をしてきた同僚の技術。
宮さん全部つぎ込んでいる。


全部つぎ込んで、絶望を美しく描いている。


もののけ姫の説教臭さもねえ、
ポニョのかわいらしい異様さもねえ、
千と千尋の、あーなんだ、わけわかんねえけど少女に対するなんかもねえ。

なんもねえ、

絶望だ、絶望してる。

でも美しい。

 

 


宮さん自分と真摯に向かい合って作ったんだな、ってわかる。

鈴木プロデューサーは「宮さんは、戦争の道具が好きだが、戦争が大嫌いな自分に、そろそろ決着をつけるべきだ」とこの映画をつくるために説得したと聞きます。

そんなつもり、最初は無かったかもしれないけど、
でも宮さん、映画を作り始めて、
自分の全てと向かい合わざるを得なかったんだな、って俺は思う。

オタクなこと、兵器大好きなこと、アニメを作ることが好きなこと、映画を一生懸命作り続けたこと。

宮さんにとって、それは絶望だったのかなあ。それが全てではないだろうけれども。

 

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えーと、
バリバリの左翼である宮さんの話で、そこに「自分が映画で説いて来た、日本」を含むことに、
僕はは抵抗があるけれど。。。

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で、


「生きねば」

ああ、悟りだ。
これ悟りだ。

全力で描いた映画、そのラストでそれを提示する。
開き直りだよ。これ、遺書ですよ。どう見ても。

宮さんは、自分なりに、監督としての人生にひとつ決着をつけたんだな、って俺には思えたのです。

 


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でね、

この、オタクのオヤジが自分の趣味全開で、自分を描いた映画。


男が自分を語る映画を、女性がどう観るのかしら?


俺、なんか不安だったんです。
女性を蔑ろにしている、って思うんじゃないかなあ、って。


んで、ちょっとしてから、女の人と感想について語り合う機会があったんです。


「良かったよー、菜穂子さんきれいだったしー」と良い感想を彼女は話してくれたんですけど。

 

 

話しているうちに

「あー、この映画、遺書だけど、ラブレターでもあるんだ」

って気付いたのです。さっきまで考えてたことは、その一部でしかないんだ。

 


宮さんの言いたいことは


「奥さん、こんな自分でごめんなさい。

バカなオタクが映画を作って、

結局何も残らなかったけど、

苦労かけたけど、

人生どれだけ残っているかわからないけれど、

作れるなら、

まだ映画を作り続けようと思います。

 

愛してる」

 

なんだって。

 

だから菜穂子さんを、あんなに美しく描いたんだ、って、思ったのです。


あの手を繋ぎながら、仕事をするシーン。
肺を病む妻の前で、結局タバコを吸ってしまう主人公。
妻の前『だけ』は、「片手で計算尺を使わせたら…」なんて珍しくも、上手くない冗談言う主人公。

奥さんのこと、すごく愛してるけど、自分のことを優先してしまうバカな男。
それをやさしく、ゆるす妻。

 


やっぱり、この映画、夫婦で観てほしいなあ。


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でさー、
それをさー、自分と同じ仕事しててさー、飛行機も大好きでさー、不器用でさー、
でもまあ宮さんのことたぶん一番理解できる立場にいてさー、

しかも美人でほぼ同業で仕事のことも理解してくれてる奥さんを持つヤツにさー、

 

主人公、演じさせるんだぜ?

宮さん、鬼だ。

 

庵野さんのauのCM

「仕事以外のメールなんて奥さんからしか…」

味わい深い。

 

●蛇足
町山智浩さんの解説によると

裏情報で失礼なんですけども、庵野さんの奥さんはこの映画を観た後、ほんとに泣いたらしいですね。そういう男と結婚してしまった悲劇でもあると(笑)。でも、それで嫌いになれないでしょ、そういう男を。夢見てる男なんだもん、常に。そういうドラマだったんですね。
http://matome.naver.jp/odai/2137713216734546901?page=2

モヨコさんが泣いてくれたのなら、この映画、大成功だと思う。


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僕は、一人の男が自分自身に向き合って、紡ぎ出したものは、
とても価値があると思う人間です。
娯楽性や、映画としての価値よりもずっと。

僕は、この映画に強く重い感銘を受けました。
それを僕は芸術だと思う。


僕は娯楽としての、この映画に80点をつけます。
そして芸術としての、この映画に100点以上をつけます。

感動しました。

男って、バカだね、ほんと。